濹東綺譚2020年01月27日

私は二ヶ月に一度の頻度で地方に旅に行く。国内旅行ですね。自分が住んでいる場所が起点となるので、全国どこに行こうがその方向は地方であると言えよう。
一月下旬、私は早朝の便で関空から成田へ飛んだ。着陸後、滑走路からバスに乗って移動し、第三ターミナルに到着した。さらに移動し、第二ターミナルの中を巨大な旅行鞄を転がしている人たちとぶつからないように歩き、鉄道に向かう通路の脇にあったコンビニで読売新聞を買った。京成電車の券売機で切符を買い、改札を二度通ってホームへの階段をおり、上野行きの特急に乗った。始発の次の駅なので車内は空いている。新聞記事の一面は、新型肺炎 武漢在留邦人帰国へ、だった。新型コロナウイルスの影響で政府は中国武漢市に在留する日本人のうち希望者全員を帰国させる方針を決めた、と。大相撲初場所で幕尻力士の徳勝龍が初優勝、幕内の番付最下位にあたる幕尻の優勝は二十年ぶりらしい。
約一時間後、船橋市内の駅で降り、用事を済ませてまた移動した。本屋に入った。旅行中の空いた時間の慰めに文庫本を買おうと思ったのだ。選んだのは永井荷風の「濹東綺譚」三百七十円(税別)だった。
書き出しは「わたくしは殆ど活動写真を見に行ったことがない。」
活動写真が趣味で年間百本以上は見ている私とは大違いのお方であります。昭和十一年の著作で、当時の向島寺島町が舞台である。現代では墨田区の西部、東京スカイツリーのある付近だと思われる。初老の男が私娼街玉の井へ通っていたおり、雨降りの偶然で娼婦のお雪と知り合い、打ち解けてその家に通い詰めるようになる。そこは売春宿である。雨が降る日には溝から水が溢れ出し、トタン葺きの屋根からは雨だれの音が聞こえてくる。夏でも長火鉢に炭火があって湯沸かしが置いてあり、家の中には蚊が飛び交っている。吾妻橋から道路が開かれ市営バスの往復が延長され、東武鉄道が盛り場の西南に玉の井駅を設けて夜の十二時まで雷門から人を載せて来るようになった云々、大正から昭和になり戦争が始まる以前、すでに町並みの盛衰を嘆いている中年男がいたことがわかって興味深い。本編の後、作後贅言という後書きが追加されていますが、ここでは銀座の町が震災後にすっかり変わってしまったことを嘆いている。震災とは大正十二年の関東大震災のことを指していると思われる。関西もしくは九州からきた人が増え、彼らは東京の習慣を知らない、と。
西船の大衆酒場でビールと煮込み(その他)を飲んで食い、JRで千葉市内に。ホテルで風呂に入ってNMB48山本彩の卒業コンサートのDVDを見て、寝た。

なんだか気になったので、その後映画「濹東綺譚」のDVDも鑑賞した。平成四年製作の新藤兼人監督、津川雅彦主演の作品である。見方によってはエロじじいの放蕩日記のようにも思え、楽しめる人は限られるのではなかろうか。わたしゃ、面白かったですが。
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