男はつらいよ 旅と女と寅次郎(4Kデジタル修復版)2020年09月23日

寅さん二十五本目。第三十一作、昭和五十八年の公開。
マドンナが都はるみ(役名は京はるみ)。役名を含めてほとんど本人が実際の姿のままそのまんまで出演しています。歌手がマドンナというのは前にも木ノ実ナナの回がありましたが、今回は演歌歌手です。新潟の出雲崎で出会い、漁船に便乗して佐渡島に渡る寅さんとはるみさん。
最初、寅さんははるみさんの正体には気がついておらず「ワケありの女」としか認識していない。同じ民宿に泊まって、女将の婆さんの手料理を食いながら酒を酌み交わす。婆さんははるみが有名な歌手であることに気がついていて、彼女が床についた後、一人で飲んでいる寅さんにサインを貰ってくれないかと頼むのであった。寅さんはそのまま知らないふりをして翌朝からもはるみさんと佐渡島の旅を続けるのでありましたが、間も無く追いかけて来たプロダクションの社長一行に見つけられてしまいます。別れの場で寅さんははるみさんの名前を口走ってしまい、その素性を悟っていたことがバレてしまうのだった。
劇中、はるみがコブシをきかせた節まわりで歌を口ずさむ場面がなんどもあり、演歌好きを喜ばせる内容になっております。クライマックスではとらやで観客を集めて「アンコ椿は恋の花」を歌唱するというサービスもあるのです。
演歌と人情劇なのですが同年代の洋画でロックンロールの寓話「ストリート.オブ.ファイヤー」みたいな渇いた高揚感があると感じるのは私だけでしょうかね。ラストのトム.コーディは寅さんそのまんまである。

男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎(4Kデジタル修復版)2020年09月23日

寅さん二十六本目。第三十二作、昭和五十八年の公開。
岡山の吉備高梁を訪れ、博の父親の墓参りをする寅さん。知り合った寺の和尚と意気投合し、一晩泊まって酒を飲み明かすのだった。翌朝、二日酔いの和尚に変わって地元の法事に代理で出かけ、借り物の袈裟をまとって出まかせの法話を語るのだった。ところが口が達者なおかげで大いに受け、地元民からは感謝されてしまうのだ。寺に住む和尚の出戻りの娘、朋子(竹下景子)に惚れてしまった寅さんは、そのまんま寺に住み着いてしまう。
やがて父親の三回忌のために博の家族(さくらと満男)が岡山にやってくる。博の実の兄弟たちもやって来て、親族一同で、寺での法要が始まるのであった。インチキ坊主の寅さんが、和尚と一緒に仏前で御経をあげているのに気がついたさくらは卒倒しそうになる。
さくらの心配をよそに和尚と朋子に気に入られた寅さんはそのまま残ることになるのだが、その頃には町で寅さんと朋子の仲は噂になり始めていたのだった。あることがきっかけで朋子の気持ちに気がついてしまった寅さんは、書き置きを置いて柴又に帰ってしまう。
寺の後継息子を中井貴一が演じている。彼は坊さんになる気などなく、写真家を目指して東京に出て行く。恋人役が杉田かおるである。
初期のシリーズではありえないことだったのですが、「あじさいの恋」同様、寅さんがマドンナに慕われて、追いかけられるという展開が、ここでも再現されます。弟(中井貴一)を口実に朋子さんがとらやまでやって来ます。袖口を掴んで「柴又の駅まで送って」と呟く朋子さんは、本気です。最後の最後でマドンナの気持ちを知りながら、はぐらかしてしまう寅さん。傷ついて涙を流す朋子さん。切ない別れであります。寅さんは恋をしても誰とも結婚する気がないのです。

作者側の理屈で考えれば、ジェームズ.ボンドが結婚したらシリーズが終わってしまう、それと同じでありましょう。「女王陛下の007」みたいに、ボンドが結婚したら花嫁は殺されてしまう。寅さんが朋子さんと結婚したら、(大げさではなく)朋子さんは死なねばならなくなってしまいます。寅さんの非情さは山田洋次監督の情けなのです。
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