男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎(4Kデジタル修復版)2020年09月23日

寅さん二十六本目。第三十二作、昭和五十八年の公開。
岡山の吉備高梁を訪れ、博の父親の墓参りをする寅さん。知り合った寺の和尚と意気投合し、一晩泊まって酒を飲み明かすのだった。翌朝、二日酔いの和尚に変わって地元の法事に代理で出かけ、借り物の袈裟をまとって出まかせの法話を語るのだった。ところが口が達者なおかげで大いに受け、地元民からは感謝されてしまうのだ。寺に住む和尚の出戻りの娘、朋子(竹下景子)に惚れてしまった寅さんは、そのまんま寺に住み着いてしまう。
やがて父親の三回忌のために博の家族(さくらと満男)が岡山にやってくる。博の実の兄弟たちもやって来て、親族一同で、寺での法要が始まるのであった。インチキ坊主の寅さんが、和尚と一緒に仏前で御経をあげているのに気がついたさくらは卒倒しそうになる。
さくらの心配をよそに和尚と朋子に気に入られた寅さんはそのまま残ることになるのだが、その頃には町で寅さんと朋子の仲は噂になり始めていたのだった。あることがきっかけで朋子の気持ちに気がついてしまった寅さんは、書き置きを置いて柴又に帰ってしまう。
寺の後継息子を中井貴一が演じている。彼は坊さんになる気などなく、写真家を目指して東京に出て行く。恋人役が杉田かおるである。
初期のシリーズではありえないことだったのですが、「あじさいの恋」同様、寅さんがマドンナに慕われて、追いかけられるという展開が、ここでも再現されます。弟(中井貴一)を口実に朋子さんがとらやまでやって来ます。袖口を掴んで「柴又の駅まで送って」と呟く朋子さんは、本気です。最後の最後でマドンナの気持ちを知りながら、はぐらかしてしまう寅さん。傷ついて涙を流す朋子さん。切ない別れであります。寅さんは恋をしても誰とも結婚する気がないのです。

作者側の理屈で考えれば、ジェームズ.ボンドが結婚したらシリーズが終わってしまう、それと同じでありましょう。「女王陛下の007」みたいに、ボンドが結婚したら花嫁は殺されてしまう。寅さんが朋子さんと結婚したら、(大げさではなく)朋子さんは死なねばならなくなってしまいます。寅さんの非情さは山田洋次監督の情けなのです。

男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎(4Kデジタル修復版)2020年09月30日

寅さん二十七本目。第三十三作、昭和五十九年の公開。
私は札幌で暮らしたことがあるので実感があるのですが、釧路は遠い。札幌釧路間は大阪東京間に匹敵するのではないかと思うほどに移動時間がかかるのだ(実際にはそれ以上かかります)。北海道は大陸である。寅さんは東北の岩手を経て北海道に渡って釧路から根室に至る。根室は北方領土の歯舞列島が目の前にあるような場所である。文字通り北の果てなのだ。寅さんのなんと自由なことか、今更ながら、その行動範囲の広さに驚かされるのだ。題名のごとく、前半の北海道では霧の場面が多い。夜の宿屋では港から汽笛の音が聞こえる。昼間は雨が降り、どんよりとした雲が空を埋め尽くす。
マドンナはフーテンの風子(中原理恵)で、ひと所に落ち着けない性格の若い美容師の女である。散髪屋になんの紹介もなく飛び込みで雇ってもらおうと売り込むが店主に体良く断られてしまう。そこで客として頭を刈っていたのが寅さんなのだった。フーテンつながりで一緒に旅をするようになった二人は彼女のおばがいるという根室に向かうのであった。途中で逃げた女房を追いかけて北海道までやって来たサラリーマン(佐藤B作)とのエピソードが絡みますが、北の大地の荒涼とした風景とともに暗い話でありました。
根室で遭遇するのがサーカスのオートバイ乗り、トニー(渡瀬恒彦)で、この男が風子に絡んでくるようになります。おばの紹介で地元で働くようになった風子。夜の宿屋で遠くに汽笛を聞きながら酒を酌み交わし、寅さんは一緒に旅を続けたいという風子に真面目に働くように優しく諭すのだった。翌日、寅さんは根室を後にします。
中間の出来事は端折られているのですが、のちに風子とトニーは東京で同棲するのです。ヤクザ者のトニーとの暮らしは過酷なものであったようで彼女は体を壊して寝込んでしまうのであった。
とらやを訪れ「風子が会いたいと言っている」と伝えるのがトニー。「挨拶は抜きだ。話は道道に聞く」と飛び出して行く寅さん。
寅さん、風子、トニーは三人ともヤクザな性格の持ち主で「渡世人」の雰囲気を持っており、お互いに同じ匂いを感じ取っています。寅さんは若い風子には堅気で幸せになってほしいと考えていて、それゆえ、トニーには「手を引いてもらいたい」と。しかし男と女の話は第三者の寅さんが口を挟んで解決するものではないのだった。前半の夜霧のように苦くて苦しい展開だった。
この映画は喜劇なので、最後には救いのある展開が待っています。寅さんは北海道でヒグマに襲われます。本物だという設定なのですがぬいぐるみのクマが観客を笑わせます。

男はつらいよ 寅次郎真実一路(4Kデジタル修復版)2020年09月30日

寅さん二十八本目。第三十四作、昭和五十九年の公開。
金がないのに上野で飲んでいる寅さん、無銭飲食でブタ箱行きを覚悟で開き直っていたところ、隣で飲んでいたサラリーマンが助け舟を出し、粋な振る舞いで伝票を持って去っていきます。一宿一飯の恩義とでも言うのでしょうか、寅さんはこの手の情けには非常に義理堅い一面を持っています。翌日、礼をしようと、もらった名刺を頼りにサラリーマン氏(富永課長)の会社を訪ねます。彼は大手証券会社の課長さんだったのだ。都心の近代的なオフィス街が舞台になることはシリーズ中で初めてではなかろうかと思います。証券会社のビル内では場違いな寅さんを課長は優しく個室にまで案内し「ここで待っていてください」と。「時間はいくらでもあるよ」とソファーで寝てしまう寅さん。夜になり仕事が終わった課長とともにまた飲み屋に繰り出すのでした。酒を飲んで語り合い、さらに意気投合した二人は酔っ払ったまま電車に乗って牛久沼の近くにある課長さんの自宅まで帰って行くのです。翌朝、目覚めた寅さん「ここはどこだ?」寝ていた部屋を出てリビングに行くと美人が朝の支度をしていました。「あの大変失礼ですけどもそちらはどこのどなたでしょう?」「夕べ主人と酔っ払っていらしたでしょう」美人は課長さんの奥さん(大原麗子)でした。
この後、課長さんは失踪します。過労による心身の疲労が原因だと思われます。
後半はいなくなった課長さんを探すため奥さん(富永ふじ子)と一緒に鹿児島を旅します。そこは課長の生まれ故郷だったのです。タクシーに乗って聞かされていた思い出の場所をたどって行く寅さんと奥さん。どうやら鹿児島に帰っているらしい痕跡はあるもののどうしても会うことができないのだった。行き詰まり、目の前にある桜島を見ながら立ち尽くす二人。「もう帰りましょう、、、」奥さんは言う。
奥さんに惚れてしまった寅さんは心のどこかで富永課長が帰らないことを願ってしまい「俺は醜い」と寝込んでしまうのだった。
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