男はつらいよ 寅次郎恋愛塾(4Kデジタル修復版)2020年10月05日

寅さん二十九本目。第三十五作、昭和六十年の公開。
さくらと博の息子、満男(吉岡秀隆)が中学生になり第二期成長期に突入、飛躍的に身長が伸びる時期です。今後、一作毎にデカくなって行く彼を目の当たりにすることになるであろう。
おいちゃんおばちゃん、さくらを含めてとらやの人々の高齢化が気になり始める今日この頃であります。
相棒のポンシュウとともに長崎の五島列島を旅する寅さん、小さな港で休憩中。その時、目の前を危なげな足どりで歩いていた老婆が転んでしまうのです。二人は慌てて助け起こし、そのまま家まで送って行くのですが、老婆から感謝されご飯と地元の酒をふるまってもらうのでした。ところがその未明、老婆は急死してしまう。最後に立ち会った寅さんとポンシュウは教会で行われた葬儀では一番後ろから頭を下げ、丘の上の墓場で墓堀をして故人を弔うのでした。帰り際、東京から来たと言う孫娘の若菜(樋口可南子)から「祖母の話を聞かせてほしい」と声をかけられます。
柴又に帰った寅さんは若菜からの手紙を受け取ると早速彼女のアパートを訪ねます。ほとんど初対面といってもいい若い女相手に全く物怖じしないフットワークの軽さはさすがです。都内の何処か、坂道の上にあるアパートの二階に彼女は暮らしています。一階には司法試験の勉強をしている若い男の民夫(平田満)が住んでいるのですが、寅さんは「若菜ちゃんが帰ってくるまで待たせてもらうよ」とばかりにズカズカと部屋の中に上がり込んで行くのでした。
民夫さん、若菜に惚れています。寅さんはあることをきっかけに民夫と若菜の仲を取り持つことを決心し、民夫を呼び出すのです。
シリーズも回を重ね、出演者たちの高齢化も進行しつつあったこの当時、寅さん本人よりもゲスト出演の登場人物たちの恋愛劇が前に出ることが多くなってきました。この作品もその中の一本で、寅さんは映画の中盤で自分の恋心よりも若い二人を結びつけることを優先して考えるようになるのです。第三十作を超えたあたりで作風に変化を覚えずにはいられないのです。

男はつらいよ 柴又より愛をこめて(4Kデジタル修復版)2020年10月05日

寅さん三十本目。第三十六作、昭和六十年の公開。
「夜霧にむせぶ寅次郎」からタコ社長の娘あけみ役で登場している美保純が今作の準主役であります。冒頭、結婚生活に嫌気がさしたあけみが家出をしています。失踪後、一ヶ月が経過して、心配したタコ社長がテレビのワイドショーに出演し、ブラウン管の中から涙ながらにあけみに語りかけるのでありました。伊豆の下田でその番組を見ているあけみさん、社長が哀れに思えたのか、公衆電話でとらやに「あたしゃ生きてるよ」と電話をします。電話を受けたさくらはひとまず安心と胸をなでおろすのですが、あけみは全く帰ってくる様子がない。寅さんを慕っている彼女が寅さんに話を聞いてもらいたそうな様子だったことから、寅さんが早く帰ってこないだろうかと相談しているとらやの人々なのだった。
途中は端折りますが、寅さんは難なくあけみを発見します。柴又に連れて帰るのが使命のはずなのですが、あけみは伊豆の海岸から沖に見える島に行ってみたいとわがままを言いだすのでした。
そこのところは全く否定しない寅さんは、あけみと一緒に連絡船に乗って沖の式根島に渡ります。船の中で遭遇するのは島の小学校の同窓会一同十一人の若者たちだった。船内の宴会に飛び入り参加した寅さんはすぐに親しくなり、彼らとともに島に上陸するのですが、出迎えに来た真知子先生(栗原小巻)が美人だったばかりに、すぐに夢心地。いつのまにかあけみをほったらかして、同窓会一同様の車に便乗して、行ってしまうのだった。波止場で一人取り残されたあけみは、たまたま居合わせた島の旅館の息子が運転するボロ車に乗り込んで、こちらの方もいずこかへ行ってしまう。かくて波止場は無人となる。この後、寅さんは同窓会一行様、あけみは旅館の息子と仲良く島巡りをするのであった。ふたりが当日宿泊するのは実は同じ旅館なのですが、冷たくされたあけみは寅さんのことを同じ船に乗っていたおじさんと言って無視するのであった。
独り者の寅さんと人妻のあけみでは立場が違いますが、式根島で恋物語が同時進行するのは変わりありません。旅館の息子から告白されたあけみが柴又に帰ると言いだしたとき、寅さんも島を離れなければならなくなるのでした。
唐突に東京都内の出版社が登場する。ロシア語辞典の編集部である。地味である。地味な中年男が真知子先生からの電話を受けて、いそいそと会社を後にする、、、。
東京都内の飛行場といえば羽田空港しか思い浮かびませんでしたが、ここでは調布飛行場が別れの場所として登場します。式根島への定期便があるのです。十人乗りくらいのプロペラ機に乗って真知子先生は島へ帰っていきます。日本各地のロケーションがこの映画の魅力なのですが、ここではバスの待合所みたいな空港設備が素晴らしく、これぞ「男はつらいよ」の醍醐味なのです。

男はつらいよ 幸福の青い鳥(4Kデジタル修復版)2020年10月09日

寅さん三十一本目。第三十七作、昭和六十一年の公開。
シリーズ開始以来、盆と正月には必ず製作されていた寅さんが、初めて夏の公開を飛ばし、前作から一年のインターバルを経て登場。この頃に至るとマンネリ化が進み、作者も創作に苦しんだのだろうか(想像でしかありませんが)
これまでのシリーズの中で時々登場していた旅芸人一座の大空小百合が今回のマドンナです。座長はすでに亡くなっていたことが判明し、せめて位牌に線香でもあげようと、寅さんは座長の家を訪ねるのである。そこにバイクに乗って颯爽と現れるのが大人に成長した大空小百合(志穂美悦子)なのでした。これまで同じ役を演じてきた岡本茉利とはかけ離れた容姿なので、見る側としては同一人物だとは全く思えません。故に話の流れに違和感があり、素直に感情移入できないのでした。

九州での再会後、上京してきた大空小百合(本名)島崎美保は、とらやの紹介で柴又の中華料理屋で働くことになるのでした。今回の寅さんはマドンナに恋することはない。反対にいい結婚相手を見つけてやろうと、区役所の結婚相談所まで訪ねて行ったりするのである。当たり前の話だが、こちらから頼んだ場合は別として、人から自分の結婚相手を探してもらっても、おおむね嬉しいとは思わないものだ。むしろ余計なお世話である。このような寅さんのありがた迷惑な行為は、みな眉をひそめるのが普通だと思われるのですが、暖かく見守るのが山田洋次監督なのです。
当然ながら、美保さんは自分できちんと恋の相手を見つけるのです。

昭和六十一年の夏、「男はつらいよ」の代わりに公開された松竹映画は「キネマの天地」で、ヒロインの有森也実が、当作「幸福の青い鳥」のラストシーンに登場します。なんでこんなこと書くかといえばわたしゃ有森也実がわりと好きだからです。

男はつらいよ 寅次郎物語(4Kデジタル修復版)2020年10月25日

寅さん三十二本目。第三十九作、昭和六十二年の公開。
冒頭場面、満男が高校生で、母親のさくらよりも長身になっています。その成長とともに映画の中での存在感も大きくなってきて、劇中「人間はなんで生きているのかな」などと寅さんに向かって難しいことを聞いてくるようになります。

寅さんのテキ屋仲間の息子が寅さんに会いにとらやを訪ねてきます。「般若のマサ」と呼ばれた少年の父親は「自分にもしものことがあったら寅を頼っていけ」と言い残し、死んだという。とらやの人々が困っているところに、寅さんが帰ってきます。極道者の亭主にいたぶられた女房はとっくの昔に蒸発しておりまして、行方が知れません。少年の名付け親は実は寅さんであります。今回は(天下を取る男)秀吉少年の母親探しの旅なのです。
大阪(天王寺)和歌山(新和歌浦)奈良(吉野)三重(志摩)と、寅さんと少年が、紀伊半島を辿っていくロードムービーになっています。途中、吉野で秀吉が高熱を出して寝込み、たまたま旅館の隣の部屋に泊まっていた高井隆子さん(秋吉久美子)が看護を手伝ってくれるのです。秀吉と寅さんが親子だと思っている高井さんは寅さんを「おとうさん」と呼びます。夜中に無理やり連れてこられた医者は二人を夫婦だと思って高井さんを「おかあさん」と呼びます。ドタバタのあげく、寅さんと高井さんはお互いを「とうさん」「かあさん」と呼び合うようになるのです。
この作品のマドンナは高井さん(秋吉久美子)なのですが、出番はほぼ奈良(吉野)のパートだけです。要するに旅の途中で少し心の情けを交わした女性に過ぎないのです。故に吉野で出会い吉野で別れました。
秀吉は伊勢志摩で母親に会うことができます。波止場で寅さんと別れる場面は西部劇の「シェーン」みたいで、切なく泣かせます。

男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日(4Kデジタル修復版)2020年10月25日

寅さん三十三本目。第四十作、昭和六十三年の公開。昭和最後の作品。
俵万智の歌集「サラダ記念日」が原作というか下敷きになっていて、作者として俵万智の名前もクレジットされています。四十本目ですが侮ってはいけません。傑作です。
長野県の小諸、駅前のバス停で知り合った老婆に気に入られ、家に招かれる寅さん。一人暮らしのおばあさんに快くもてなされて、晩酌にもあずかりながら背後の仏壇からおじいさんの幽霊にも遭遇し、楽しく怖い一夜を過ごすのでありました。翌朝、家を訪ねてくるのが病院の医師、原田真知子さん(三田佳子)で、病気のおばあさんを迎えにきたのであった。自分の死期を悟っているおばあさんは「後生だから」と両手を合わせて家で死にたいと言うのですが「元気になったら帰ってこられるから」と説得するお医者さん。寅さんは自分も一緒に病院まで付き合うからと声をかけます。するとおばあさんは「あんたがそう言うなら」と入院することに同意するのでした。車の中で「ちょっと待って」と長年暮らした家を目に納めるおばあさん。朝日に照らされながら落ち葉が舞う古い家の風景。自分にも田舎にあのくらいの年の親がいて、実家は平屋建ての古ぼけたあばら家なので、その気持ちがよくわかる場面でありました。
入院の経緯から真知子先生に感謝された寅さんは先生の家に招待され、そこで先生の姪である由紀ちゃん(三田寛子)と顔見知りになるのであった。早稲田大学の学生だと言う由紀ちゃん、ちょうど満男が大学受験を控えた年頃だと言うこともあって、寅さんは都の西北にあるキャンパスを訪ねて行くのであった。教室で学生たちに混じって講義を受けることになるのだが、Industrial Revolution(産業革命)におけるワットの蒸気機関の話で手を上げて教授に質問をするのでありました「さっぱりわからない」と。十八世紀の英国人であるはずのワットを知っていて、そんなはずはない奴は日本人で宮城県出身だと言う。本気で言っているから面白いのですが、話が進むうちに寅さんが言っているのは二十作目(寅次郎頑張れ)に登場したワット君(中村雅俊)だと言うことがわかってくるのでありました。とらやガス爆発事件の一件が面白おかしく語られて聴講生たちにバカ受けし、講義はぶっ壊れるのでありました。昭和六十年代のキャンパスライフを見ることができます。
寅さんの顔は真知子先生のなくなった旦那さんに面影がにているらしく、二人はいい雰囲気になるのです。後半、おばあさんが危篤になり、ついには亡くなってしまう。家で死にたいと懇願するおばあさんを無理やり入院させてしまったことで辛い思いをしていた先生は寅さんの肩で涙を流すのでした。
最後は小諸の真知子先生の家で由紀ちゃんが作ったサラダを食べて、寅さんは去っていく。
「寅さんが(この味いいね)と言ったから師走六日はサラダ記念日」
「旅立ってゆくのはいつも男にてカッコよすぎる背中見ている」

この作品から「とらや」の屋号が「くるまや」に変わり、店員に三平が雇われています。
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