男はつらいよ 寅次郎の告白(4Kデジタル修復版)2020年11月08日

寅さん三十七本目。第四十四作、平成三年の公開。
寅さんと満男W主演の三本目、及川泉(後藤久美子)も連続出演三本目。前作で父親を訪ねて九州の日田まで旅をした泉ちゃん、今度は家出をして鳥取砂丘から満男に絵葉書を送って来ます。
東京での就職活動に失敗し、名古屋では再婚問題で母親と喧嘩をし、家を飛び出してしまったのでありました。葉書の文面から何かを感じた満男が名古屋に電話をかけてみると、そういう話だったのだ。居ても立ってもいられない満男はさくらが止めるのも聞かず、泉を探しに鳥取まで飛び出して行く。
さて、鳥取。古い家屋が並んだ水路のそばの路地をあてもなく歩いている泉ちゃん。駄菓子屋であんぱんを食べていると、店のおばあさんが気を利かせて家の中に上げてくれる。泉の様子から察したのだろう「晩御飯も食べて行きなさい」。おつかいを頼まれた泉がお鍋に豆腐を入れて路地を歩いていると水路を挟んだ向かい側に寅さんの姿が。思わず走り出し小さな橋の上で寅さんに抱きついて泣き出してしまう。落とした鍋が水の上をドンブラコと流れて行く。その後、二人はおばあさんの家で晩御飯をご馳走になり、そのまま一晩泊めてもらうのであった。二間しかないという古い家が実にいい雰囲気なのだ。おばあさんと二人で寝るのが嫌な寅さんは泉に間に入ってもらい「川の字」に布団を敷いて三人で寝るのだった。
翌朝、おばあさんの命令で呼び出された孫の男が鳥取砂丘まで寅さんと泉を車で送っていく。小高い丘のような砂丘のてっぺんに座ってじっと待っていた満男は泉の姿を見つけると転げ落ちるように走り出すのでした。
映画はすでに終盤です。しかしこのタイミングでカーツ大佐のごとく、マドンナが登場します。寅さんの昔馴染みの料亭で三人は食事をするのですが、そこに乗り付けた車の中から一人の女が下りて来ます。女将の聖子さん(吉田日出子)で、寅さんが昔惚れていた女であった。彼女は食事だけで帰ろうとするところを引きとめようとするのだが電車の時間があるからと辞退する三人なのであった。ところが女将の旦那であるかつての恋敵が死んだことを知ると、満男に「香典と花を買ってこい」と命令する寅さん。その場にとどまって墓参りをする。夜は料亭に一泊することになるのでした。満男と泉を寝かせた後、一階の座敷で差し向かいで酒を酌み交わす寅さんと女将。
出演時間は短いのですが、それまでの話を吹っ飛ばすほどの存在感を発揮する聖子女将。死んだ夫にはさんざん泣かされて寅さんを選ばなかったことを後悔していると、部屋の電気を消して迫ってくる場面は迫力であった。女は怖い。

四十二作以降の作品は満男が様々な理由から柴又から遠く離れた日本のどこかで寅さんと合流する展開になります。満男は渡世人ではなく堅気の人間ですが、自分の伯父の人生をほんの少しだけ垣間見る。

昭和の終わりから平成以降は、出演者たちの高齢化が進んでいます。満男、泉、三平ちゃんなど若い世代の対等がマンネリ化した映画に新鮮味を加えているのかな。

男はつらいよ 寅次郎の休日(4Kデジタル修復版)2020年11月08日

寅さん三十六本目。第四十三作、平成二年の公開。
冒頭の夢場面、平安時代の貴族が面白かった。宮殿で和歌を詠んでいる車小路寅麻呂、そこに道に迷った美しい女人が、、、。

受験に合格し、念願の大学生になった満男。前作に続いて連続出演の泉ちゃん(後藤久美子)、寅さん相手のマドンナ(今回は泉の母親)もいるのですが、私が思うには(ぼくの伯父さん)(寅次郎の休日)における事実上のマドンナは及川泉である。
「母親探しの旅」というのはよくあるように思いますが、本作は「父親探しの旅」がテーマとなっています。娘が父親を訪ねて日本を縦断するという話です。冒頭、泉が満男を訪ねて東京にやってくる。満男は大喜びするのだが、彼女の真の目的は母親と別れた実の父親に会うことだったのだ。
事情を察した満男とともに父親の勤める勤務先に出かけていく泉ちゃんだったが、そこで聞いたのは父はすでに退職していたという現実なのであった。あきらめ切れない泉は父親の元勤め先から聞いた大分県の日田へ行くことを決心するのだ。送りに来た東京駅の新幹線ホームでそのことを聞いいた満男は発車のベルが鳴ったとき、思わず列車の中に乗り込んでしまう。
前作の(伯父さん)は満男が泉を追いかけて九州にバイクを飛ばす話だが、今度は泉が父親を追いかけて九州に向かって新幹線に乗り込む話である。同行する満男はおまけであり金魚の糞である。
そこのろ、泉の母親、礼子(夏木マリ)が娘を訪ねて柴又のくるまやにやってくるのであった。泉が九州に旅立ったことを知った礼子さんは偶然その場にいた寅さんとともに、満男と泉を追いかける旅に出る。最終の新幹線には間に合わず、寝台列車のブルートレインで日田へと向かうのだ。娘のことが心配で眠れない礼子さん、向かい側の寝台にいる寅さんに缶ビールを飲みながら愚痴をこぼすのであった。フーテンの寅はこんな時の話し相手には最適な男なのだった。
泉が父親(寺尾聡)に会う目的は母とよりをもどして、また一緒に暮らしたいと言うためなのだった。しかし、日田の愛人宅で幸せそうにしている父親を見て何も言えなくなってしまう。愛人の女(宮崎美子)も人の良さそうな穏やかな人物で、むしろ自分の母親よりも優しそうな雰囲気なのだ。敗北を感じた泉はそのまま名古屋に帰る決心をする。涙を流す泉の横で困り果てている満男であったが、そこに登場するのが寅さんと礼子さんのコンビなのです。四人はそのまま地元の温泉旅館に一泊し、まるで家族のような晩餐が始まるのであった。
その夜、夫を取り戻せないことを思い知らされた礼子さんの慟哭とそれを慰める泉の声が壁を通して聞こえてくる。布団の中で眠れない寅さんと満男なのです。
「困ったことがあったら風に向かって俺の名前を呼べ」はこの作品の台詞でした。渥美清さんが言うと心にしみますな。
最後は凧が空を舞う映像で始まる日本の正月風景。夏がなくなり年末のみの公開になってしまったこの時代の定番です。

男はつらいよ ぼくの伯父さん(4Kデジタル修復版)2020年11月04日

寅さん三十五本目。第四十二作、平成元年の公開。
今年六月の第一作「男はつらいよ」から他の映画をほったらかして、ずっとリバイバル公開を追いかけてきましたが、ついに「満男シリーズ」と呼ばれている一連の作品群に到達いたしました。寅さんのおいである満男がもう一人の主人公として作品の中核を担うようになるのです。時代は平成、満男は浪人生になっています。
満男には惚れた女がいる。高校時代の後輩で名前は及川泉(後藤久美子)という。彼女は両親の離婚をきっかけに母親と一緒に名古屋に引っ越していってしまったのだ。実は文通しているのである。恋からくる妄想で勉強が手につかない満男はとうとう女に会うために家出をしてしまうのであった。いつの間にやら単車の免許を習得していた満男は、オートバイに乗って名古屋を目指すのだ。鈍行の電車やバスでの移動を好む寅さんとは対照的な姿であります。名古屋で泉の母親(夏木マリ)会い、泉が叔母のいる佐賀で暮らしていることを聞いた満男はそのまんま高速道路に乗って九州に向かう。この映画の中では満男の旅がメインになっているのだ。
佐賀に到着した満男は地方の旧家によくあるような巨大な家の前に立ち、玄関がわからずに戸惑っているところ、泉が学校から帰ってくるのだった。再会を喜び合う二人だったが、すぐに日が暮れてしまう。その夜、満男は地元の旅館を探し出し、料金が安くなるということで相部屋に通されるのですが、そこの相手がなんと寅さんなのだった。
寅さんがくるまやに電話をかける。さくらが「大変なのよ。満男が家出したの」と泣き言をいう。それに答える寅さんは優しく満男と交代、電話口で大泣きするさくらと満男。「青春よ」と呟く寅さん。
満男と泉ちゃんの恋物語が軸として進行しますが、佐賀で出会った泉の祖父に気に入られた寅さんは泉の叔母さんの寿子(壇ふみ)に好意を持ったこともあり、満男と一緒に勧められるがまま晩飯を食べ、そのまま宿泊することにするのでした。
寿子の夫は堅物の高校教師で、唐突な客人たちを快く思ってはいない。バイクを飛ばして東京から泉に会いにきた満男のことも「浪人生が勉強もしないで高校生の少女に会いにくるなんて」と嫌味な言い方で非難する。
渥美清と吉岡秀隆のW主演となっている作品で、クライマックスは九州から柴又に帰った満男が家族や地元の人々から歓迎される場面です。そこに寅さんが電話をかけてきます。電話を通してくるまやの人々が入れ替わり立ち替わり寅さんと話そうと頑張る姿が映されます。遠く離れた地方の駅で公衆電話に硬貨を投入しながら受話器に向かって語りかける寅さん、やがて硬貨が途絶えて通話がプッツンと切れる。晩秋の風が吹く中、一人駅に佇む寅さんは、寂しくなったのだろうか、目の前にいる学生たちに声をかけるような仕草を見せる、、、。
ラストシーンはどこかの神社での正月です。「平成二年」の文字が見えます。そう、三十年前の日本の風景なのですよ。

この作品の中では電話の描写が印象に残ります。電話は通話の道具であります。私は公衆電話を頻繁に使っていた経験がありますので、硬貨がなくなって会話がプツンと切れてしまう感覚が懐かしく感じられるのであります。

男はつらいよ 寅次郎心の旅路(4Kデジタル修復版)2020年11月04日

寅さん三十四本目。第四十一作、平成元年の公開。
オーストリアのウィーンが舞台となっているシリーズ中でも異色の作品。市井の人々の生活臭が漂ってくるような映像が魅力の「男はつらいよ」ですが、ウィーンでのそれはまるで絵葉書を切り取ってきたかのような美しい景色ばかりであります。石畳の美しい街並みと美しく青きドナウ川。
マドンナのおばさんはスパイの未亡人で、家の中に綺麗な犬を住まわせてリビングにはグランドピアノがドカンと置いてあり、その上には額に飾った写真が並んでいます。日本人が想像する西欧の風景そのものであり、完全に外国です。作者も観客もわかっていることですが、寅さんには全くもって合いません。

宮城県の一両編成ローカル線に乗っている寅さん、電車が急ブレーキをかけて停車します。外に出てみると線路の上で寝そべっている中年男。うつ病で自殺を図ったサラリーマンの坂口兵馬(柄本明)でありました。ゆきずりの縁ですが捨て置けない寅さんは坂口さんを旅館に連れて行き、芸者を呼んで酒を酌み交わし、一夜を過ごすのでありました。すっかり寅さんに懐いてしまった坂口さん、自身の望みであったオーストリアへの旅を寅さんと一緒に行きたいと言い出します。
ある日、唐突にくるまやを訪れた旅行会社のエージェントはウィーン旅行のための航空券その他を取り出し、車寅次郎様のパスポートを拝見したいと、述べるのでありました。面食らうくるまやの人々。ウィーンを湯布院だと勘違いしてあっさりと同行を引き受けた寅さんも、行き先がヨーロッパとなると、さすがに自分には無理だと判断し、家族の助言に従って断ることに同意するのでした。

結局、オーストリアまで旅をすることになる寅さん。ウィーンで必死に働いている日本人の久美子さん(竹下景子)と出会い、恋をします。西欧の食事が口に合わなくて閉口しているところ、久美子さんに紹介されたマダム(淡路恵子)からシャケ茶漬けやらおにぎりをいただいて、生き返るのでありました。久美子さんの運転でドナウ川のほとりに出かけ、川の流れを眺めながら日本の話をする二人。寅さんは彼女の頑張りをたたえつつ「故郷に帰りたいだろう」と帰国をすすめるのです。久美子さんも「故郷の塊」みたいな寅さんと話すことで郷愁が募り、一旦は日本に帰ることを決意します。
帰国を決めた久美子さんと寅さん坂口さんが空港のゲートをくぐろうとした時、どんでん返しが起こります。

ラストシーンは日本です。寅さんが相棒のポンシュウと祭りの境内で啖呵売をしています。帰ってきました。やっぱり日本が一番いい。それが結論ですな。

男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日(4Kデジタル修復版)2020年10月25日

寅さん三十三本目。第四十作、昭和六十三年の公開。昭和最後の作品。
俵万智の歌集「サラダ記念日」が原作というか下敷きになっていて、作者として俵万智の名前もクレジットされています。四十本目ですが侮ってはいけません。傑作です。
長野県の小諸、駅前のバス停で知り合った老婆に気に入られ、家に招かれる寅さん。一人暮らしのおばあさんに快くもてなされて、晩酌にもあずかりながら背後の仏壇からおじいさんの幽霊にも遭遇し、楽しく怖い一夜を過ごすのでありました。翌朝、家を訪ねてくるのが病院の医師、原田真知子さん(三田佳子)で、病気のおばあさんを迎えにきたのであった。自分の死期を悟っているおばあさんは「後生だから」と両手を合わせて家で死にたいと言うのですが「元気になったら帰ってこられるから」と説得するお医者さん。寅さんは自分も一緒に病院まで付き合うからと声をかけます。するとおばあさんは「あんたがそう言うなら」と入院することに同意するのでした。車の中で「ちょっと待って」と長年暮らした家を目に納めるおばあさん。朝日に照らされながら落ち葉が舞う古い家の風景。自分にも田舎にあのくらいの年の親がいて、実家は平屋建ての古ぼけたあばら家なので、その気持ちがよくわかる場面でありました。
入院の経緯から真知子先生に感謝された寅さんは先生の家に招待され、そこで先生の姪である由紀ちゃん(三田寛子)と顔見知りになるのであった。早稲田大学の学生だと言う由紀ちゃん、ちょうど満男が大学受験を控えた年頃だと言うこともあって、寅さんは都の西北にあるキャンパスを訪ねて行くのであった。教室で学生たちに混じって講義を受けることになるのだが、Industrial Revolution(産業革命)におけるワットの蒸気機関の話で手を上げて教授に質問をするのでありました「さっぱりわからない」と。十八世紀の英国人であるはずのワットを知っていて、そんなはずはない奴は日本人で宮城県出身だと言う。本気で言っているから面白いのですが、話が進むうちに寅さんが言っているのは二十作目(寅次郎頑張れ)に登場したワット君(中村雅俊)だと言うことがわかってくるのでありました。とらやガス爆発事件の一件が面白おかしく語られて聴講生たちにバカ受けし、講義はぶっ壊れるのでありました。昭和六十年代のキャンパスライフを見ることができます。
寅さんの顔は真知子先生のなくなった旦那さんに面影がにているらしく、二人はいい雰囲気になるのです。後半、おばあさんが危篤になり、ついには亡くなってしまう。家で死にたいと懇願するおばあさんを無理やり入院させてしまったことで辛い思いをしていた先生は寅さんの肩で涙を流すのでした。
最後は小諸の真知子先生の家で由紀ちゃんが作ったサラダを食べて、寅さんは去っていく。
「寅さんが(この味いいね)と言ったから師走六日はサラダ記念日」
「旅立ってゆくのはいつも男にてカッコよすぎる背中見ている」

この作品から「とらや」の屋号が「くるまや」に変わり、店員に三平が雇われています。
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