賢島2024年01月09日

内宮への参拝を終え、例年のようにおはらい町を歩いた。今年は伊勢志摩に泊まりの日程なので、ここで飯を食うのはやめておくことにする。白鷹の店があったので、酒を買おうか迷ったが、見るだけにした。

午後三時過ぎ、三重交通のバスに乗って宇治山田駅に向かった。

購入したのは午後三時三十七分賢島行き特急の指定席だった。四十分ほどで到着する。

賢島は近鉄伊勢志摩の終点である。子供の頃、社会科の教科書で学習したリアス式海岸、英虞湾に来た。

男ひとりなので、宿泊する宿に期待するのは値段の安さであって、多くは求めない。飯と風呂があればいい。現実に、古くて古く古く古く古い旅館だった。鉄筋のホテルだが、造りといいなんといい、ザ.昭和である。ロビー(フロント)(受付)の照明が暗い。置き物が沢山ある。天皇陛下(現在の上皇陛下)のお写真が飾ってある。ロビーにあるテーブルの上にオセロやら将棋やらすごろくやらアナログな遊び道具が山積み。フロントに行って呼び鈴を(持ち上げてふりふりしてちりりんと鳴らすやつ)鳴らしても誰も出てこない。平日のせいかもしれないが、わりと大きめのホテルに従業員が見当たらないというのは珍しい経験だった。予約の段階で午後六時のチェックインにしていたから早くきすぎたのかもしれない。寒いけど海でも眺めて時間を潰そうか。一度外に出てホテルの裏側にまわり、英虞湾の風景を見た。目の前に小さな島があって、その奥にも島があるのがわかる。沖の海は見えない。飛行機に乗れば小さな島々が点在している複雑な地形を見ることができるのだろう。午後五時、もうじき日が暮れる。もう一度フロントに行ったがやっぱり誰もいない。大きめの声で呼んでみたら、奥から返事がして白衣の上に茶色い羽織着物をまとった男が出てきた。おそらく、この人の本職は料理だと思われるが、受付から部屋、食事と風呂(大浴場)の時間まで、ぜんぶ一人で案内をやってくれた。先に風呂に入りたかったので、食事は六時からとした。部屋は二階海側の十畳和室で、大浴場は地下、食事は一階の和室である。私の他に客が見当たらない。古い鉄筋の大きなホテルで、貸切状態、従業員も今のところ一人しか見ていない。もうじき夜になる。シャイニングを思い出してしまった。ホラー映画みたいな展開だ。

とりあえず落ち着きたい。部屋に入った。踏込の横にトイレがあり、靴を脱いで上がった板間に冷蔵庫が置いてある。持ってきた飲み物を入れた。和室は十畳、すでに布団が敷いてあり、座卓に茶器があり、床の間だった場所には薄型テレビが置いてある。縁側には小さなテーブルと椅子、縁側の横に洗面所と風呂がある。窓の外は冬の英虞湾が広がっていて、眺めがいい。

地下の大浴場に行った。脱衣所で服を脱ぎ、中に入った。昔ながらの銭湯といった雰囲気で、蛇口の下に赤錆が浮いている。湯は熱い。私は風呂が長い。ゆっくり浸かってからあがったが、やっぱり他には誰も入ってこなかった。女湯もあるが電気は消えていた。



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