男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく(4Kデジタル修復版)2020年08月23日

寅さん十八本目。第二十一作、昭和五十三年の公開。
昭和五十三年(1978年)は私が映画館で最初に字幕スーパー付きの洋画を見た年だった。
タイトル前のオマケエピソードは「未知との遭遇」のパロディで、帝釈天に空飛ぶ円盤が飛来する。ハリボテみたいな出来の宇宙船にさくらは「予算がないのね」と呟く。この作品は夏の公開だったそうだけど、ちょうどその時期の私は「スター.ウォーズ」を見て、目をキラキラさせていた。

旅先で熊本の温泉に長居し過ぎてしまったが故、宿代を払えず、またさくらを呼び出して、九州まで迎えにきてもらうという、懲りない寅さんである。反省の気持ちはあるようで、旅館の床の間に飾ってある書には「反省 寅次郎」と、ある。なにやら地元の人々には愛されていて、車先生などと呼ばれて、サインなど求められるのだった。口が達者で愛嬌があるから人から慕われるのですな。大木の下で女にフラれて泣く若者の現場に遭遇し、「青年、女にフラれた時には、うんじゃらなんじゃら」と、声をかける寅さん、尺八の音が響き、頭を下げる青年と歩き去る寅さんの後ろ姿が延々と映される。青年の名は留吉、演じるのは武田鉄矢、女好きなのにもてない若者役がドンピシャにハマっています。
さくらに怒られて反省した寅さんは柴又に帰り、しばらくの間は真面目に店の手伝いをしてとらやの人々を喜ばせるのだが、長続きはしない。
マドンナ(紅奈々子)は松竹歌劇団のスターで、さくらの同級生。浅草の国際劇場で公演をやっていて、寅さんは上京してきた留吉とともに通いつめるようになるのだった。
松竹歌劇団はすでに解散していて劇場も解体されて別の建物になっているらしい。映像を見る限り(女性だけなので)宝塚歌劇団に似ているような気がします。

男はつらいよ 噂の寅次郎(4Kデジタル修復版)2020年08月23日

寅さん十九本目。第二十二作、昭和五十三年の公開。
大井川の橋の上で寅さんとすれ違う雲水は葛飾立志編で山形の住職を演じていた大滝秀治である。役柄の上では同一人物ではないかもしれない。「おぬし女難の相があるぞよ」などと言ってくるが、「こちとらそれでいつも苦労が絶えないんだよ」が寅さんの返答であり、劇場の観客も同意見であるのである。その後、木曽路に向かうバスの中で再会するのが、シリーズ中の重要人物、博の父親の飈一郎さん(志村喬)だった。一作目では北海道の大学の教授だったと記憶しています。今作では信州の寺を巡ってそこにある古文書などを調べて回っておられるようだ。寅さんは親戚の教授に同行し、教授の金で旅館に泊まり、芸者を呼んで酒を飲んでいる。同席している教授に歌を歌わそうと煽るが、教授は「私は眠いんだよ」と断り、芸者を連れてなおも外に遊びに行こうとする寅さんに「持って行きなさい」と自分の財布を預けるのだった。どちらも大人物である。
卓に置いた今昔物語の文庫本の中にある逸話をわかりやすく寅さんに語って聞かせる教授の話は映画を見ている観客の心にも響くもので、前半の旅の部分は仙人みたいな志村喬の佇まいを含めていい場面になっていました。
後半、職安から紹介されてとらやにやってくる美人の店員が離婚をひかえた人妻の荒川早苗(大原麗子)です。もちろん、寅さんは惚れます。マドンナが美人だと観客の気分も盛り上がりますが、大原麗子はシリーズ中、屈指の美人です。今回ばかりは相手が美し過ぎてカラダが固まってしまうのか、なにやらぎこちない寅さんなのだった。早苗に惚れている幼馴染の高校教師を演じているのが室田日出男です。「野獣死すべし」で夜行電車の中、伊達邦彦と対峙したあの刑事です。
ラストシーンで再会するのは冒頭に登場した失恋女、泉ピン子。結婚直後で新郎とともに蒸気機関車に乗っている。機関車は走る。走り去っていく。
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